私は今日、浮気をした。
相手はバイト先の年下の男の子
彼氏は3年前に付き合った大学時代の同級生
GPSアプリが平日にも関わらずずっと自宅を示していて、電話にも出なかったら、見かねた彼が自宅に押しかけてきた
下着姿で寝ている私たちの元へ
彼が合鍵を開けて入ってくる
第一声は「何してんの」
なんともよく見覚えのある光景
半年前に知り合って特に付き合いが深いわけでもない人が隣にパンツ一枚でいて
3年間苦楽を共にした彼がすこし離れた場所で青ざめたような憎しみのような顔でこちらを見ている
その光景がなんだか不思議でおかしくて
それと同時に
自分の人生が、絶望からのスタートになることがなんとなく分かった
「もう、好きじゃないんだ、ごめんね」
口をついた言葉が
自分でもゾッとするほど冷たい言葉だった
三年間
こんな簡単にゼロになっちゃうんだ
ぼーっとした頭ではもうなにも考えられなかった
彼の顔は涙でぐちゃぐちゃだった
昨日はかっこよく見えた隣の彼はパンツ一丁で情けない顔をしていて、なんだか萎えた
前にもこんなに泣かせたことがそう言えばあったな
あの頃は私も泣いてたけど、、
ぐちゃぐちゃの泣き顔の彼は私に一発
平手打ちをした
むかついたら殴るって散々言ってた彼のくせに
私には平手打ち一発だった
優しさが情けが失望か
おそらくそんなところだろう
「お前なんてとっとと死ねばいい」
コロコロと表情を変えて見飽きなかった彼の
私が最後に見た顔は
今まで見たことのない、冷たい、冷たい顔だった
合鍵は優しく手渡しで返された
たくさん繋いだ大きくてあったかい手は
もう、まるで、他人のように冷たい手だった
引き止める言葉が出なかった
行かないで、も
これは嘘で、も
ちゃんとだいすきだよ、も
全部全部、
今の私が言葉にするには
あまりにも薄情だった
大好きだった大きな背中が
少しずつ、少しずつ
離れていく
パンツ一丁の彼には服を着せて部屋を追い出した
もちろんバイトは辞めた
snsのアカウントは全て消した
そんなことをする前に、
彼はもう私をブロックしていた
嫌になって大学を辞めた
家族には何も言ってない
新しいバイトを探さなきゃな
がらんとした殺風景な部屋の真ん中で
真っ白な天井を見つめて
2人でしたお昼寝
寝れなくて天井を見つめてると
彼はいつも私を振り向かせて優しくキスしてくれた
ラーメンの器
よく2人でラーメンを作るから
ラーメン皿が欲しいよねっていって買った
私が猫好きだから可愛い猫の柄の器
こぼすと危ないよって言って
代わりにお湯を注いでくれた
遮光カーテン
彼はいつもカーテンを閉めてから
私に深いキスをした
ゴム手袋
冬になると手が寒くて食器が洗えない私に
買ってくれた
なぜか少し大きめのLサイズ
好きなキャラクターのスウェット
開店前に店に並んで
2人で必死になって店を探して買った
お風呂場
一つの湯船に一緒に浸かった
お揃いのお茶碗
お揃いのマグカップ
お揃いの指輪
どこを見ても
彼の優しさしかなかった
自分のものだったはずの人生は
気づけば彼の人生になってた
泣ける映画で私よりボロボロ泣く顔
私の冗談にお腹を抱えて笑う顔
ゲームでイライラする顔
久しぶり会った時に隠しきれない嬉しさが滲み出ちゃってる笑顔
具合が悪い私を心配そうに見つめる顔
不安で泣く私に戸惑いながらも笑いかける顔
私しか見たことがないキスする前の愛おしそうな顔
そして
死ねばいい、と言われたら時の顔
いまさら遅すぎるけど、
大好きな3年間だった
大好きな人だった
愛おしい人だった
彼が、私の人生だった
これから、私の人生になる彼だと思った
当たり前の幸せを
退屈なんて言葉で塗り替えて
理由をつけて
昔のドキドキする感じをまた思い出したくて
壊れるのは一瞬だったな
ひとりぼっちになった部屋で
スカスカになった予定を見つめて
これからどうやって生きてこうかな
大好きでした